【歯科衛生士】やっていませんか?違法な型取り

歯科医療の現場では、歯科衛生士が日々多くの業務を担当していますが、法律上許可されている業務と禁止されている業務の境界線を正確に把握していないことで、知らず知らずのうちに違法行為を行っているケースがあります。
特に「型取り(印象採得)」に関しては、歯科衛生士が行える範囲が法律で明確に制限されています。
この記事では、歯科衛生士が行える型取りの範囲を説明します。
歯科衛生士が型取りを行う際の法的注意点
歯科衛生士が業務を行う上で、法律に則った適切な範囲を把握することは非常に重要です。
特に印象採得(型取り)については、歯科衛生士法で明確な規定があり、これを逸脱すると違法行為となります。
歯科衛生士法における規定
歯科衛生士法では、歯科衛生士の業務範囲が明確に定められています。
第2条において、歯科衛生士は「歯科医師の直接の指導の下に、歯牙及び口腔の疾患の予防処置として行う歯牙の沈着物の除除去、歯牙及び口腔の清掃その他厚生労働省令で定める事項を行うことを業とする者」と定義されています。
この規定から、歯科衛生士は予防処置を中心とした業務を行うことが許され、診断や治療行為は歯科医師の専権事項です。
印象採得の定義と解釈
印象採得とは、患者の口腔内の状態を再現するために歯や歯肉、顎などの形状を印象材を用いて型取りする行為です。
この印象採得は、単なる技術的作業ではなく、診断や治療計画に直結する医療行為として位置づけられています。そのため、すべての印象採得を歯科衛生士が行えるわけではありません。
違法となるケース
歯科衛生士が違法に印象採得を行うケースとしては、治療を目的とした印象採得が挙げられます。
例えば、クラウン(被せ物)やブリッジ製作のための印象採得、義歯(入れ歯)の製作のための最終印象などは、歯科医師が行うべき行為であり、歯科衛生士が行うと違法となります。
具体的にどのような型取りが違法となるのか?

歯科衛生士が行える型取りと行えない型取りの区別を具体的に理解することが重要です。
具体的な症例と治療内容に基づいた解説
歯科治療において型取りが必要になる主な場面として、クラウン製作、義歯製作、矯正治療などがあります。特に治療目的の型取りは、原則として歯科医師が行うべき行為です。
例えば、虫歯治療後の被せ物作製のための精密印象は、適合性が治療成功に直結するため、歯科医師の専権事項となります。
許可されている行為と禁止されている行為の境界線
歯科衛生士が行える型取り | 歯科衛生士が行えない型取り |
スタディモデル用の概形印象 | クラウン・ブリッジの最終印象 |
マウスガード用の印象(予防目的) | 義歯製作のための機能印象 |
ホワイトニング用のトレー製作のための印象 | インプラント関連の印象採得 |
予防処置用のカスタムトレー製作のための印象 | 精密な修復物製作のための印象 |
グレーゾーンの行為と注意点
一部の印象採得は、目的によってグレーゾーンとなる場合があります。
例えば、ナイトガード(就寝時の歯ぎしり防止装置)の印象は、予防目的であれば歯科衛生士が行える可能性がありますが、顎関節症の治療目的であれば歯科医師が行うべきです。このようなグレーゾーンについては、常に歯科医師と相談し、適切な判断を仰ぎましょう。
違法な型取りを行ってしまった場合のリスク
違法な型取りを行うことは、患者さんと歯科医療従事者双方にリスクをもたらします。
患者への影響と健康被害
不適切な印象採得は、不適合な修復物や補綴物の製作につながり、患者さんの口腔機能や審美性に悪影響を及ぼす可能性があります。
また、印象採得時の適切でない手技により、軟組織の損傷や誤嚥などの事故が発生するリスクもあります。
トラブル発生時の対応
万が一、印象採得に関連したトラブルが発生した場合は、速やかに歯科医師に報告し、適切な対応を取ることが重要です。
また、事故の経緯や対応策を診療録に詳細に記録しておくことも必要です。
歯科衛生士への罰則
歯科衛生士法に違反した場合、歯科衛生士は行政処分の対象となります。具体的には、業務停止や免許取消などの処分が下される可能性があります。
また、重大な健康被害を引き起こした場合は、刑事責任を問われることもあります。
歯科医師への罰則
歯科医師が歯科衛生士に違法な型取りを指示した場合、歯科医師法違反として行政処分や刑事責任を問われる可能性があります。
管理者としての監督責任も問われるため、歯科医院内での法令遵守は歯科医師の重要な責務です。
歯科医院における適切な業務分担とリスク管理
安全で法律に準拠した歯科医療を提供するためには、適切な業務分担とリスク管理が不可欠です。
歯科医師と歯科衛生士の役割分担
歯科医師と歯科衛生士の役割分担を明確にし、それぞれの専門性を活かした連携が重要です。
特に印象採得については、歯科医師が責任を持って行い、歯科衛生士はその補助や予防目的の印象採得を担当するという明確な線引きが必要です。
法令遵守のためのチェック体制
歯科医院内で定期的な法令勉強会を開催したり、業務マニュアルを整備したりすることで、違法行為を防止するチェック体制を構築しましょう。
また、新しい治療法や技術を導入する際には、法的な観点からも検討することが重要です。
印象採得以外の業務における注意点
印象採得だけでなく、歯科衛生士業務全般において法的な境界線を理解することが重要です。
特に、スケーリング・ルートプレーニングなどの業務においても、歯科医師の指示の下で行うべき範囲を把握しておく必要があります。
正しい知識で安全な歯科医療の実現を
歯科衛生士と歯科医師が適切に協力することで、より安全で質の高い歯科医療を提供できます。
関連団体・機関への相談窓口
法的な判断に迷った場合は、各都道府県の歯科医師会や歯科衛生士会の相談窓口、あるいは厚生労働省の担当部署に相談することをお勧めします。
専門的なアドバイスを受けることで、適切な業務遂行が可能になります。
厚生労働省や歯科医師会などの見解・ガイドライン
厚生労働省や日本歯科医師会、日本歯科衛生士会などから発表されている見解やガイドラインを定期的に確認し、最新の法的解釈や推奨される業務範囲を把握しておくことが重要です。
これらの情報は定期的に更新されるため、常に最新情報にアクセスする習慣を持ちましょう。
まとめ
歯科衛生士による型取りの法的制限は、患者さんの安全と適切な歯科医療の提供を目的としています。歯科衛生士は自身の業務範囲を正確に理解し、歯科医師との適切な連携の下で業務を行うことが重要です。
違法な型取りを避け、法令に準拠した業務遂行を心がけることで、患者さんに安心・安全な歯科医療を提供できます。
また、歯科医師も歯科衛生士の業務範囲を理解し、適切な指示と監督を行うことが求められます。正しい知識と連携で、より良い歯科医療の実現を目指しましょう。